日大・東海大対校2016
中距離の前年日本選手権優勝者2人が始動
荒井は故障明けレースで「及第点」
川元は自身初の「冬期大きな故障なし」でのシーズンイン

 今年の日大・東海大には、昨年の日本選手権優勝者が2人出場した。
 荒井七海(東海大4年)が1500mで3分51秒77の2位、800 mの川元奨(スズキ浜松AC)はオープン参加で1分49秒57。
 トラック&フィールドの印象が強い日大&東海大で、前年の日本選手権優勝者が中距離2種目というのは珍しいケースだろう。

荒井編「昨年の優勝がフロックではなかったと証明したい」

 レース展開だけを見れば、2人とも満足のいく内容ではないのかもしれない。
 1500mはワンブィ(日大2年)最初の400 mを56秒22(筆者計時)と異次元の速さで飛ばしたため、他の選手がついていくことができなかったのは当然だった。それでも、2位選手の400 m毎が筆者計時で以下の通過だった。
1分01秒18
2分04秒28
3分07秒17
 春先の対校戦ということを考えれば消極的とは言い切れないが、1500mのレベル停滞を考えると歓迎すべきレースでもなかった。荒井は2位争いにきっちりと勝ったが、実績からすれば当然と言えた。

 だが、荒井自身は「物足りないと思う人もいると思いますが、僕自身としては及第点の走り」と振り返った。
 年末から2月の頭まで、右脛骨の疲労骨折で練習に影響が出たことが原因だった。
「本当はスタミナ作りをしたいと考えていましたが、1カ月半、後ろにスライドしてしまったので、(本格練習再開後も)スピードを上げきれませんでした。練習で試行錯誤していましたが、実際にどんなパフォーマンスが試合でできるか、不安要素が多かった。今日は4分を切れたら、という想定もしていたくらいです」

 荒井はインターハイ予選落ちで、一昨年までは3分51秒台という選手だった。昨年の日本選手権優勝で一躍注目を集める存在になったが、元々、東海大で駅伝に貢献したいと頑張ってきた。最終学年となる今季の目標は「三大駅伝で3位以内に入ること。そのために個人でも結果を出して、勢いをつけたい」と考えている。
 だが、話題が日本選手権になると、前年チャンピオンとしての強い意思も見せる。
「連覇は、僕だけが持っている特権です。昨年の優勝はマグレと言う人も多いと思いますし、僕自身そう思いますが、フロックではなかったことを証明したい」
 伏兵だった2015年から、ディフェンディングチャンピオンとして臨む2016年へ。プレッシャーもかかるだろうが、予想以上のシーズンインができたことを自信としたい。

川元編「5月には五輪標準記録を切りたい。必ず決めます!」

 川元のシーズン初戦は苦戦だったといえるだろう。
「フロントランで1分47秒台前半」(前日の陸連強化委員会会見での平田中距離部長)で走る予定だったが1分49秒57。600 mで、竹林守(東海大)に前に出られたことも予想外だった。
 200 m毎の通過タイムは以下の通り(筆者計時)。
200 m 25秒34
400 m 52秒16
600 m 1分20秒78

 レース後の川元は歯切れが悪かった。
「500m過ぎで止まってしまいました」
 これはバックストレートの向かい風が強かった影響もあったが、400 m通過も「予定のペースでしたが、もう少し楽に通過したかった」と、想定以上の力を使っていたことも一因だった。
「今日の風で1分48秒前後だったら、(シーズン前半の)五輪標準記録(1分46秒00)突破の可能性が見えましたが、1分49秒台では……。一度抜かれたことも、マイナス材料です」
 竹林をホームストレートで差し返したのは、日本記録保持者でラスト勝負に強い川元の意地だったか。

 明るい材料は、大学入学以降では初めて、冬期練習中に大きな故障が一度もなかったこと。川元と松井一樹コーチ、トレーナーの3者の連携を、これまで以上に密にした。
 松井コーチが説明する。
「継続して見ていただいているトレーナーの方から微妙だと言われても、本人や僕がやります、やらせます、ということもありました。大丈夫だろう、とやってみて、大丈夫じゃなかったケースもあったんです。1月から2月にはアメリカに行って、世界室内優勝者のいるチームの練習に参加しました。トレーニングは平地で行いましたが、2000mの高地に3週間滞在。帰国後に杉田先生(陸連科学部長)にデータを見ていただき、高地トレーニングの効果も確認できています。500m×3本でも、日本記録を出したときよりもちょっと良いタイムが出せている」

 他の日大スタッフも指摘していたように、この日はレース展開の仕方のミスが大きかった。52秒台で入り、そのまま“フロントラン”で押し切る。目的ははっきりしていたが、予想以上の強風の中でも敢行したことで、どこかに力みが出た可能性はある。
 小田原の城山競技場は桜の名所?だが、満開だった桜が散り始める時期。
「桜吹雪にやられました」とある日大スタッフが漏らしたのが言い得て妙だった。

 弱気なところも見せた川元だが、しばらくすると気を取り直していた。5月の静岡国際、ゴールデングランプリ川崎を連戦し、そして北京のワールドチャレンジミーティングに出場の可能性もある。
「静岡国際、ゴールデングランプリで1分46秒を切りたい。必ず決めます!」
 川元の躍進を支えてきた強気のメンタルは、今季も健在だ。


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